大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和24年(新を)1296号 判決

被告人

丹羽胖

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六拾日を右の本刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人伊藤敬壽の控訴趣意第三点について。

記録によれば本件起訴状記載の訴因は論旨摘録の如く、強盜の共同正犯の事実であるのに原審は刑事訴訟法第三百十二条に従い、訴因の追加又は変更を命ずる等の措置を執ることなく判示において原審相被告人小倉に対しては強盜幇助の事実を認定していることは所論のとおりであるが、訴因とは公訴事実を法律的に構成したものをいいここに法律的に構成するとは刑罰法令の各本条に定める犯罪構成要件にあてはめて敍述するというに外ならないから訴因と判決の認定事実との間に若干の相違があつても、その間に公訴事実としての同一性が失われず、同時にそのあてはめられた構成要件の同一性もまた失われていないならば、両者は同一性を保つているものと謂うことができ、判決の事実認定において訴因をこの程度に変更することは固より刑事訴訟法第三百十二条の措置をとる必要はないと解すべきところ、前記本件起訴状によれば被告人丹羽は原審相被告人小倉と共謀の上云々の記載あり、原審判決はこれを被告人丹羽の單独の犯行と認定し、原審相被告人小倉の所為を以て幇助と認定しているのであつて、両者の基本的事実そのものは同一で、單に犯行の態様に対する法律的観点にずれがあつたにすぎず公訴事実の同一性は失つて居らないものと認められ、共犯なりや單独犯なりやは犯罪構成要件の修正形式であつてそれ自体が犯罪構成要件を成立せしめる要素ではないから、共同正犯とせられているものをその罪の單独犯に認定したからとて、それによつて犯罪構成要件の同一性を失わしめたものということはできない。果して然らば原審が前記の如き事実認定をしたからとて訴因に包含せられない事実を認定したものと謂うことを得ず、その間原審が刑事訴訟法第三百十二条所定の措置をとらなかつたことは何等違法の点はないから論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例